ピエロがお前を嘲笑う | Who Am I (2014)
1.9/5.0
ミステリーSFの「1899」を手掛けたスイス出身の脚本家・映画監督バラン・ボー・オダーによるドイツ製作のスリラー映画。
ハッキングの才能がありながら冴えない生活を送ってきた青年を主人公に、ウェブ社会におけるサイバー犯罪やその捜査にあたる人々も含めた攻防戦が描かれる。
具体的に書くと大きなネタバレになってしまうので避けるが、劇中の背景に登場する映画のポスター等から、この映画の脚本にどのようなツイストが仕掛けられているかを、鑑賞中から想像できる。
ほとんどのシーンが主人公と捜査官の取調室での会話と主人公の回想で構成されているが、いわゆる「信頼できない語り手 (Unreliable Narrator)」の叙述スタイルが取られており、何が真実で何がミスリードなのかを推測しながら鑑賞する楽しさがある。
どんでん返しに驚かされる映画として今作をあげる映画ファンが多いことにも納得できる。
ただ、あまりにもそのどんでん返しありきというか、脚本のツイストを越えてそれ自体が目的化しているのではと感じるほど、主人公やその周辺人物の動機や行動内容に説得力がなく、超人的な才能や思わせぶりな背景を持ちながら起こす犯罪の内容はチンピラの迷惑行為レベルというあたりも絶妙にダサく、登場する人物のほぼ誰にも感情移入できなかったのが残念。
ハッカー達やサイバー犯罪界の大物とのネット空間における邂逅のシーンの可視化に薄汚れた電車車両や仮面が用いられているが、一見スタイリッシュに見えて実にチープなその演出にも興ざめしてしまう。
細かいことはさておきどんでん返しだけを味わいたいという人には良いのかも知れないが、そこだけに振り切っているともいえる今作では、それ以外の部分の脚本や演出の稚拙さが気になってしまう。
終盤で何重にも仕掛けられたどんでん返しがあったとしても、で主人公達は結局最初から最後まで何がしたかったんだっけ? という置いてけぼりの読後感だけが残ってしまうように思う。
この映画の製作者達がリスペクトしながらもそれを越えようと参照したであろう映画達の完成度の高さを思い出してしまった。