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Cinema Review

極悪女王 | The Queen of Villains (2024)



4.3/5.0

1980年代の日本における女子プロレス史を下敷きに、ヒール役として名を馳せたダンプ松本 = 松本香を主人公として、他の実在プロレスラー達も多数登場しながら描かれる全5話のNETFLIXオリジナルドラマ。

企画・脚本を鈴木おさむが、総監督を白石和彌が担っている。


NETFLIXの資金力があってこそなのかも知れないが、主要な登場人物を演じたゆりやんレトリィバァ・唐田えりか・剛力彩芽といった俳優達は、本撮影より数年も前から身体面のトレーニングを行い、ドラマ内の試合シーンをほとんどスタントなしで演じ切ったとのこと。

一概にスタントを頼ることが悪で本人が演じることが良いといったことではなく、危険なアクションを俳優の代わりに担うスタントという職業には素晴らしい価値があると思うが、このドラマにおいては、俳優達がかなりハードなアクションの部分も含めて演じ切ることで、各々の俳優が演じるプロレスラーの心の葛藤や逡巡等の精神性までを自身に取り込んでいるかのような高いリアリティを感じた。


芸人でありながらオーディションに応募し主演を獲得したゆりやんレトリィバァの凄まじい存在感と迫真の演技はもちろんとして、唐田と剛力はプライベートな部分で世間を騒がせてしまった影響でここ数年のキャリアが停滞していたようだが、この作品における彼女達の俳優としての存在感は純粋に素晴らしく、これを機に俳優として本来あるべき注目が集まり、良いキャリアを進んでいくのではないかと感じた。


当時プロレスファンのみならず社会現象的な注目度をもって羨望や脚光を浴びたライオネス飛鳥や長与千種を物語の中心とするのではなく、彼女達の同期生でありながら彼女達のようなスーパースターにはなれず、それを引き立てるヒールという役を選んだ (むしろ選ばざるを得なかった) ダンプ松本を主人公にするという着想が素晴らしい。

大きな脚本展開としては史実に基づきながらもドラマ的脚色は少なからずあると思うが、常にスポットライトの中心にいたヒーロー達にも、スポットライトを浴びるために望まざる選択をした者達にも、等しく苦難や葛藤や屈辱があったことが明らかになっていく物語には胸がとても熱くなった。


演出全般に関しては総じて安定的で、脇を固める俳優達も含めた登場人物達の演技を活きいきと映すカメラワークやカッティングがされていたと思うが、個人的には、劇伴だけがちょっと前に出過ぎていたように感じた。

のどかさを描きたいシーンではのどかな曲を、悲しさを描きたいシーンでは悲しい曲を… といった風に、今はこういうシーンですからね〜 というガイドラインのような聴こえ方の楽曲がやや多く、もう少しだけ俳優達の演技や鑑賞者の鑑賞眼を信じて、想像や感情の起伏の余白が観る側の心に残るような抑制的な演出のシーンの比率を高くしても、この作品の素晴らしさは損なわれなかったのではないかと思う。

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Shoji Taniguchi | 谷口 昇司

Creative Director

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美術大学にて映像を中心に学び

現在はマーケティング業界で働き中

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