機動警察パトレイバー the Movie | Patlabor The Movie (1989)
3.9/5.0
伊藤和典が脚本を、押井守が監督を担った1989年公開のアニメ映画で、ゆうきまさみによる原作漫画やアニメーションシリーズがあるが、世界観や登場人物をそれらと共有している。
レイバーと呼ばれる巨大人型ロボットが開発され普及している (原作当時から見た) 近未来の東京を舞台に、警察車輌として存在するパトレイバーの操縦者を主人公として描かれるSF作品。
自衛隊の試作レイバーの暴走事件をきっかけに、都内で稼働中のレイバー達の暴走が多発する。レイバーの挙動を制御する最新OSに原因があるのではと推測した主人公の同僚が調査を進めていくと、ある天才プログラマーが仕掛けた恐ろしい罠の存在が明らかになってくる。
クライムサスペンスものとしての導入や展開が面白く、架空の巨大マシンであるレイバーの暴走を物語の軸としつつ、スマートフォンはおろか個人用パソコンすらまだ普及していなかった映画公開時において、コンピュータウィルスによる犯罪という先見性のあるテーマが設定されていることにも驚かされる。
パトレイバーシリーズの映画作品は、今作の後に製作された「機動警察パトレイバー2 the Movie」が傑作過ぎることもあり、今この1作目を観直すとやや粗が見えたりトーンが軽いところが気になりはするが、SFクライムサスペンスとしての総合的な完成度はすごく高い。
押井守監督作品の特徴ともいえる古典・名言・格言等からの引用は今作でも健在で、旧約聖書や新約聖書の要素が多数用いられているが、それらの全ての知識がないと物語が理解できなくなるほど難解な脚本にはなっておらず、知的興味が高まる絶妙なバランスになっていると感じる。
パトレイバーシリーズで描かれている、1980年代から分岐し独自に発展したもうひとつの近未来の東京には、他のSF作品にはなかなか見られない不思議な魅力と、普遍性がある。