ルックバック | Look Back (2024)
4.3/5.0
「チェンソーマン」や「ファイアパンチ」で大ヒットした漫画家、藤本タツキによる約150ページ程度の読切漫画を原作とするアニメーション映画。
原作者と同じく、漫画という創作に夢中になった2人の少女の人生が描かれる。
ギャグタッチの漫画の才能を周囲から絶賛され有頂天になっている藤野と、凄まじい風景画の才能を持つ不登校児の京本が出会い、2人がチャンスを掴んでいく展開がとても瑞々しく、地方都市の広い風景描写の美しさもあって惹き込まれる。
原作者の藤本タツキが育った東北地方の風景と学生時代の原体験がそこに大きく参照されているのだろう。
互いに欠けている部分を補完しながらコンビで活動してきた2人が、成長した結果 (成長するがゆえに避けられなかった) 岐路に立たされるシーンでは、自分自身にもかつてあった同様の経験が思い出され、心が痛くなった。
プロの漫画家として才能を発揮し成功していく藤野と、自分自身の才能をより高めるために袂を分かった京本に起きる事件は、日本で実際に起きてしまった大惨事が参照されていることが明らかに分かる。
起きてしまったことは覆せないのが常だが、物語の創作にひたすら向き合ってきた2人に、奇跡のような、あるいは幻のような「もしも」の物語が展開する一連のシーンでは、その儚さと限りない美しさに涙が溢れてしまった。
原作者は映画好きで有名だが、クエンティン・タランティーノ監督が近年の作品で行っているような、我々が知っている史実と違う結末が創作の中でだけで起きる、いわゆる歴史改変のアプローチを参照した展開なのだろうと感じた。
また、タイトルの「ルックバック」は英国のロックバンドのオアシスによる楽曲「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」から取られているはず。
聴く人によって多様な解釈ができるといわれている曲だけれど、今作の物語と照らし合わせることで、作品に込められた想いを理解するヒントになる。
She knows it's too late / As we're walking on by / Her soul slides away / But don't look back in anger / I heard you say…
2人で共に歩くにはもう遅すぎると理解していても 怒りで過去を振り返るだけではいけない 私は君の言葉を聴いたから…
漫画原作をアニメーション化するにあたり、押山清高監督の演出は原作の持ち味を忠実に再現することに注力していると感じたが、藤野のギャグ漫画がアニメーションとして再現されるシーンの演出は少し冗長で、原作にあった荒々し過ぎる勢いと鋭利なアホさの角が丸まってしまっているように感じた。
haruka nakamuraによる劇伴も監督の演出と同様だが、こちらは少し過剰に鳴り気味で、鑑賞者の感情をコントロールしようとし過ぎているように聴こえる。
楽しいシーンでは楽しい曲を、悲しいシーンでは悲しい曲を… だけではない、やや客観的に登場人物の心理と距離を置いた劇伴の方が、原作と読者の間にある距離感により近しくなるように感じたが、これは鑑賞する側の好みの問題もあるかも知れない。
この作品は、原作者の藤本タツキによる、実際に起きた悲劇とその犠牲者達への鎮魂歌として生み出されたものであることは明らかだ。
ひたすら創作に向き合いそして喪われた人達に向けて、自身の創作をもって弔いの気持ちを示したということなのだろう。
理不尽かつ解釈不能な暴力のショッキングな描かれ方について、原作漫画掲載時にクレームが入った事実があり、その理由にも共感できる部分が少なからずあるが、原作者がきっと覚悟をして描き切ったであろうその勇気に、私は敬意を表したい。
その原作の意義がブレることなく忠実にアニメーション化されているところに、製作者達の想いを感じとることができた。