シビル・ウォー アメリカ最後の日 | Civil War (2024)
4.4/5.0
「エクス・マキナ」「アナイアレイション」「MEN」等で脚本・監督を担った英国出身のアレックス・ガーランドによる戦争映画で、2024年における最注目映画のひとつといっても良いであろう作品。
政治暴走への反発から、米国を構成する50州のうち19州が分離独立を宣言し、内戦が勃発した米国が舞台。
脚本の中心人物はジャーナリスト達で、キルスティン・ダンストが演じる戦場フォトグラファーの主人公と、ケイリー・スピーニーが演じるキャリア駆け出しの写真家を軸に物語が展開する。
ホワイトハウスに立てこもり続ける大統領を取材すべく、主人公達がニューヨークからワシントンD.C.を目指し約1,400kmの旅をする。
シーンや風景が様々に切り替わるロードムービーの手法を取りつつ、現代社会における米国の内戦という状況描写のリアリティが凄まじく、これはフィクションだと理解していながらもドキュメンタリー映画を観ていると錯覚をしてしまいそうな瞬間がいくつもある。
脚本・監督のアレックス・ガーランドの意図は明らかで、これは2024年の米国大統領選挙を機にあらためて顕在する (された) 米国内の思想分断という現実を、物語として先鋭化したということだろう。
ただ、現実においては「保守主義 (コンサバティブ)」と「自由主義 (リベラル)」という2大主義が米国の政局バランスを握っているが、この映画において分離独立した19州と政府および大統領がそれぞれどちらの主義なのかについての描写は全くといっていいほど存在せず、これも製作者による意図的なものであることが分かる。
内戦という状況そのものを凄まじいリアリティによって具象化しつつ、その勃発が何に起因しているのかについては抽象化することで、どちらが正義でどちらが悪といった勧善懲悪的な単純理解を鑑賞者にさせず、その意識を国家の分断という現実そのものと向き合わざるを得ないようにするという意図がある。
これまで戦場フォトグラファーとして何度も死線をくぐり抜けベテランの落ち着きを備えていた主人公が、ワシントンD.C.への旅の過程で起きる極限状況で次第に疲弊し、自我が揺らいでいく展開が恐ろしい。
反対に、物語の序盤では主人公やその同僚に半人前と扱われていた駆け出しの写真家が、極限状況を生き延びながらその状況を記録し続けることを通して、次第に狂気にも似たプロフェッショナルの凄みを纏っていくという、主人公と対になった人格変遷の演出が面白い。
多くの批評家や鑑賞者が触れているシーンではあるが、ジェシー・プレモンスが演じる赤いサングラスをかけた兵士が登場する一連のシーンの静かな禍々しさは、映画史に残るレベルと感じた。
同じ言語を使っていて、会話が通じるのに意思は疎通できず、そんな存在に自分達の生殺与奪の権を握られているという恐怖。
現在の米国がどういう状況に陥っているかを、最も端的に描写しているといっても過言ではないのではないか。
アレックス・ガーランド監督には以前から注目していたものの、映画としてのエンタテインメントよりもアートへのこだわりに重きをおいている印象が強く、作品によって面白いと感じるものと全然刺さらなかったものがありその差が激しかったのだけれど、今作はエンタテインメントとアートの両立のみならず現代社会に対する痛烈なテーマの投げかけもあって、久々に素晴らしい完成度の映画を鑑賞したという読後感があった。https://filmarks.com/movies/113906/reviews/187316467