アガサ・オール・アロング | Agatha All Along (2024)
3.5/5.0
マーベル・スタジオが製作・展開するマーベル・シネマティック・ユニバース (MCU) のドラマシリーズで、「ワンダヴィジョン」の脚本と製作総指揮を担ったジャック・シェイファーが今作の原案・脚本・監督・製作総指揮を続投している。
「ワンダヴィジョン」に登場し、同作で魔法の能力を奪われた魔女が主人公で、その能力を取り戻すために「魔女の道」を行くという物語。
全9話を鑑賞することで、第1話から大量の伏線が脚本に組み込まれていたことが分かり、物語の全貌が最後に明らかになるという緻密な構成がとても面白いのだけれど、中盤の第6話ぐらいまでは伏線ありきに感じる唐突な台詞やちぐはぐに感じるシーンの繋ぎ方が目立ち、それがややノイジーで物語に没入しにくかった。
この違和感の正体と本当の意味は後で分かるのだろうというワクワク感はありつつも、あまりにもそれが多過ぎるというか、伏線を重視するあまり主軸となる演出が少しとっ散らかってしまっているような…
劇中に何度か形を変えて登場する楽曲「魔女の道のバラッド」は一度聴いたら忘れられないほど印象的で耳に残り、この歌が物語全体の軸にもなっているところも新鮮だった。
この歌のルーツや、魔女たちの間でどのように歌い継がれてきたのかの真相が後半で明らかになるのだけれど、その内容には驚きがあり、かつ感動的でもあった。
他のMCU作品と比べると派手なVFXがかなり少なく、製作予算も他作品より控えめだったらしいけれど、それぞれ個性的な俳優達による人間 (魔女) ドラマが物語をしっかり牽引していて、退屈することはない。
主人公と因縁がある緑の魔女を演じたオーブリー・プラザの存在感は特に際立っていて、この役を通じてさらに有名になるのではないかと感じた。
拡張していく一方のMCUの世界には、超科学、宇宙人、人工生命、神と悪魔、海底人、魔術師、ミュータントまで存在しているが、魔女や魔法の歴史も本格的に描かれて、いよいよ際限がない。
今作は他のMCU作品の事前鑑賞が強く求められる内容にはなっておらず、魔女たちの物語として楽しむこともできるようにはなっていたが、それでも今作の主人公が初登場する「ワンダヴィジョン」を観ていなければ導入の部分で主人公の動機の理解がやや難しいだろうし、「ワンダヴィジョン」を鑑賞するにはその主人公のワンダとヴィジョンが登場するさらに前のMCU映画を鑑賞しないと訳が分からないだろう。
作品ごとにジャンルやタッチが大きく変わるそれぞれの映画やドラマを同一宇宙での出来事として設計するMCUの挑戦には高い価値があると思うが、さすがにちょっとその設計に綻びが目立ってきてしまっているようにも感じ、ファンだからこそ心配になってしまう。
今作で登場した魅力的なキャラクターは、今後のMCU作品でも活躍するのだろうか? 期待して待ちたい。